スタッフ
- 准教授 杉原儀昭
研究内容
私たちの研究室では,有機硫黄化合物,特に硫黄原子を含む環状有機化合物の合成,構造および反応性に関する研究を行っています.最近は,硫黄原子を含む3員環有機化合物であるチイランを研究対象としています.
3員環有機化合物は,環内結合角が60°に近くなり,分子が歪みをきたすため,合成することが困難な化学種です.しかしながら,その歪みの解消を反応促進力として働かせられることから,合成中間体として有用化合物合成に応用されることが期待されている化合物です.3員環有機化合物のうち酸素原子や窒素原子を含むオキシラン (2) やアジリジン (3) は,アルケン (1) に過酸やニトレン等価体などの活性化学種を反応させれば一段階で合成することができ,これまでに多くの医薬品や有用化合物の合成中間体として活用されてきました.チイラン (4) に関しても,アルケン (1) からの一段階合成法が現在までにいくつか報告されていますが,いずれの方法も,反応が基質特異的である,反応条件下でチイランからアルケンへの逆反応が進行する,チイランと反応試薬がさらに反応する,などの問題を持ち,一般性に欠けていました.しかしながら,チイラン (4) は,酸素や窒素原子にくらべ他の置換基を導入することを容易にする硫黄原子を持つことから,合成中間体としてオキシラン (2) やアジリジン (3) よりも有用であると考えられます.また,チイラン環を持つ化合物がある種の酵素の阻害剤として働くことや,チイランをモノマーとして使用したポリマーが高屈折率のプラスティックレンズとして有用であることもわかってきました.効率的かつ実用性のあるチイランの合成法が確立できれば,チイランの有用性は現在よりもはるかに高まることが期待されます.
私たちは現在,加硫剤や加硫促進剤としてゴム工業で使用されている安価な (5)〜(7)や,(5) から容易に調製される (8) を硫化試薬として用いたアルケン (1) からチイラン (4) の一段階合成法の開発を検討しています. (1) を (4) へ効率的に変換する硫化試薬の開発についても研究しています.また,チイラン (4) に求電子試薬を反応させ,他の含硫黄環状化合物に効率よく変換させる方法を検討しています.