スタッフ
- 教授 斎藤雅一
Philosophy
近代のめざましい科学技術の発展によって,これまで不可能とされてきた様々なことが実現できる世の中になってきました.この不可能を可能にする科学の力の源は,科学的検証によって裏付けられた“学理”にあり,科学技術の更なる飛躍のためには,これまでの常識を打ち破る新学理の構築が必要不可欠です.
私たちは,C, H, N, Oといった元素をメインプレーヤーとする有機化学に,元素固有のユニークな性質をもつ典型元素を巧みに融合させることで,これまでにない新たな学理の構築を目指しています.
また,そこから生み出される新物質の機能・物性にも焦点を当て,マテリアルズサイエンス分野に革新をもたらす研究を展開していこうと努力しています.
Research
芳香族化合物の代表格として知られるベンゼンは,その主骨格が炭素原子(周期表の第2周期)からできています.これまでの“芳香族性”の概念は,このような炭素骨格をもつ化合物に適用されるものですが,高周期元素を含んだ芳香族性に関しては,多くのミステリーが残されたままになっていました.私たちは,分子骨格中に高周期元素であるスズや鉛原子を導入した環状化合物,ジリチオスタンノール及びジリチオプルンボールの合成に初めて成功しました.そして,これらが炭素π電子系骨格にスズや鉛を含む世界で初めての芳香族化合物であることを示しました.このことは,一部の例外を除いて第2周期までの元素で構築されている芳香族性の概念が遠く第6周期の元素の系まで成り立つことを示しており,化学の教科書に新しい一ページを刻む重要な学理となりました.ジリチオプルンボールの研究成果は大変権威のあるScience誌に掲載され,Nature誌や国内の新聞などでも紹介され,国内外に大きな反響を呼びました.
新たな概念は,新たな機能をも創出します.最近では,ジリチオスタンノールがリチウム電池の新たな陽極活物質として有用であることを見いだしました.私たちが生み出す新たな分子や概念は,人々の生活を支える,ひいては大きく変える,想像を越えた可能性を秘めています.