Takayanagi Lab.
Research
生命の起源の探索
● 生物の謎
「生命はいつ、どこで、どうやって生まれたのか?」これは極めて素朴な疑問であり、我々人類は古代からこのことを問い続けています。しかし現代の科学でも、依然としてこの問に決着をつけられてはいません。それどころか生命体の構成材料であるタンパク質やアミノ酸、核酸を構成する塩基や糖などについても「いつ、どこで、どうやって」生じたのか、依然として極めて重大な問として鎮座しています。
● 生命体の材料はどこで生じたのか?
生命の起源について順を追って考えてみましょう。まず生命体の構成材料となるアミノ酸、核酸塩基などの複雑な有機分子はいつ、どこでで生じたのでしょうか?これを考えるためには、こうした複雑な有機分子が何からできたのかという情報が必要です。現在では複雑な有機分子はもっと小さな有機分子同士の反応でできたと考えられています。そしてその小さな有機分子は小さな無機分子からできたと考えられています。このように無機分子から有機分子ができ、徐々に大きく複雑な有機分子ができたとする考え方は、1920年代に旧ソ連の科学者オパーリンによって発表されました。彼はこの一連の化学反応が原始地球の海の中でおこり、海で最初の生命が誕生したと考えました。現代でも生命が海で誕生したという説は広く知られ、受け入れられています。しかし一方で生命体を構成する有機分子については、地球上で初めて作られたのではなく地球外からもたらされたのではないかとする説があります。
隕石から核酸の構成要素であるアデニンとグアニンが発見されたという2011年のニュースを覚えていますでしょうか。この他にも隕石からはアミノ酸など生命体の材料となる有機分子が見つかっています。有機分子の発見で最も有名な隕石のひとつに「マーチソン隕石」があります。この隕石からはアミノ酸や核酸塩基、糖など生命体の構成材料となる有機分子が多数見つかっています。アミノ酸には本来左手型(L)と右手型(D)の二種類があり、生物を構成するのは左手型(L)だけという偏りがあるのですが、マーチソン隕石から見つかったアミノ酸にも偏りがあることが確認されています。
こうした隕石の研究が進むに連れ、太陽系の惑星が形成される過程で既に生命体の材料となる有機分子が形成されていたのではないか、またそうした分子が地球外から原始地球に供給されたのではないかという仮説が立てられたのです。
● 宇宙でできた可能性を探る
有機分子の見つかっている隕石は、太陽系の誕生期に形成され、その頃の分子を石内部に閉じ込めたまま今に伝えていると考えられています。有機分子の形成が太陽系に特別なことでないとすれば、現在形成途中の星周辺を調べれば生命体の材料となるような複雑な有機分子が星成長過程のいつごろできたのかが分かるはずです。現在、そのヒントは星形成の最初の段階、星間物質が濃く集まった領域にあると考えられています。この領域は分子雲と呼ばれており、その中に分子雲のコアがあります。分子雲コアでは既に170種を超える分子が発見されています。その中には水素分子や水、アンモニアなどの無機分子、メタンやホルムアルデヒドなどの有機分子も含まれています。また興味深いことに最も簡単な糖、グリコールアルデヒドも発見されています。アミノ酸自体はまだですが、あと一度反応すればアミノ酸になると期待されているアミノアセトニトリルは既に見つかっています。
宇宙空間の分子を探すためには電波望遠鏡が欠かせません。そのためより高性能な電波望遠鏡が望まれていました。2013年3月、ついに電波望遠鏡の国際共同プロジェクトであるアルマ望遠鏡が本格始動しました。アミノ酸の発見もそう遠くないかもしれないですね。
● アミノ酸の手がかり「アミノアセトニトリル」
高柳研究室では「アミノアセトニトリル」という分子に興味を持っています。この分子は既に分子雲で発見されており、水と反応してアミノ酸の一種であるグリシンになると考えられています。そのため宇宙空間でアミノ酸ができる過程のひとつとして、このアミノアセトニトリルを経由する反応が注目されており、宇宙空間でのアミノアセトニトリル生成過程を研究しているのです。