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Takayanagi Lab.

Research

宇宙にある分子の不思議 - HNCとHCNの比?

●宇宙を分類してみよう

『宇宙』とは何を指す言葉でしょうか。僕が考えるに、そこには太陽や惑星、彗星、ブラックホールなどの天体、そして星と星との間にある真っ暗な空間などのことではないでしょうか。

これらそれぞれは学術用語でどのように分類されているのかというと、実は厳密な定義というものはありません。それは先日の「冥王星を惑星に含めるか?」といった問題を見てもお分かりでしょう。厳密な定義があればああいった問題は起こらないはずですしね。

その点を踏まえた上で、ある程度分かり良い分類をしてみましょう。

大体上記のような感じで分けることができると思います。dwarf planetとは前日の惑星再定義の一件で生まれた概念です。矮惑星と訳されることも多いですが、まだ正式な日本語訳がないので(2006年9月7日現在) 、ここでは英語のままにしておきます。

さて、ここで注目してほしいのは、図の下の方にある『星間空間』というところです。『星間空間』というのは、星と星との間にある広大な何もないように見える空間のことを指します。ここには図で示したように、『星間ガス』と呼ばれる非常に密度の小さいガスと、『星間塵』と呼ばれる珪素や炭素、鉄、マグネシウムなどのやや重たい元素でできた微粒子が存在しています。

●星間空間にはどんな分子がある?

ここで、宇宙にはどのような元素が存在しているか見てみましょう。宇宙の元素存在度はこのようになっています。

図の原子数比(%)を見ると分かるように、宇宙では圧倒的に水素の数が多いことが分かると思います。約9割ですね。次にヘリウム、酸素、炭素と続きます。これは元素存在度なので、化合物に含まれている水素や酸素もカウントされています。では、分子の形ではどのような分子がいるのかも見てみましょう。

少し古いデータですが(2005年10月18日)、宇宙にはこれらの分子が存在していることが分かっています。ここで面白いのは、宇宙には奇妙な形をした分子が存在しているという点です。例えば、手の数のあっていないラジカル分子が多いです(CHやC2など)。加えて、イオンのまま存在している分子があります(CF+やHCNH+など)。

●HNCとHCNの存在比?

図の『3』の部分の最初にHCNとHNCと書かれています。この2つは異性体で、HCNの方がかなり安定だということが知られています。どのくらい安定かというと、地球上でHCNが1万個あっても全てHCNになっているくらいです。しかし、多くの星間空間ではHNCとHCNの比が0.01〜1 : 1程度である、ということがわかっています。

この存在比の謎はいまだに解決されていませんが、ある程度のことは分かっています。その鍵は、先ほどの図の『4』の部分の上から4つ目に書かれている『HCNH+』というイオンにあるとされています。

このイオンに電子がぶつかるとHCNH分子になります。ここから余分なエネルギーをもったHCNH分子は、そのエネルギーを放出するために、自ら原子を手放します。その手放す原子は水素原子ですが、ここでCと結合している水素原子を手放せばHNCになり、Nと結合している分子を手放せばHCNになります。これがHNCが多く存在する理由の一つではないかと考えられています。

さて、ではこれ以外にHNCができる反応というのは考えられていないのか、というと、考えられています。というわけで、ここからやっと僕の研究の話に入ります。長いイントロでしたね。

●ぶつかるだけでは分子はできない

そもそも、なぜHCNH+がHCNHになって分かれていくなんてややこしいプロセスをたどらなきゃいけないのか、NHとCがぶつかればHNCができるんじゃないのか、とお思いになる方もいらっしゃるかもしれませんが、話はそう単純なものでもないわけです。

それはエネルギー保存の問題です。宇宙はほぼ真空なので、周りに他の分子はいません。3つの分子が同時にぶつかる可能性は0といっても良いでしょう。すると、2つの原子がぶつかって、安定な1つの分子になってしまうと、余計なエネルギーの逃げ場がないため、結局、そのエネルギーは今できた結合を切るために使われてしまい、分子はまた2つの原子に分かれていきます。同じようなことが分子同士の衝突にも言えるわけです。なので、3原子分子を作るには、4つ以上の原子が関わる衝突が必要になるのです。抜けていく原子が必ずあるのですから。

●NH分子とC2分子の衝突

そういうわけで、僕が注目したのはNH分子とC2分子です。この2つは両方ともラジカルで、衝突するとHNCCという分子になります。ここからCが抜けていけばHNCになると予想されますね。

この衝突のシミュレーションをするプログラムというのは既にありますので、そのプログラムを使ってNHとC2をぶつけてみた所、ほぼ100%HNCが生成することが分かりました。この反応が星間空間におけるHNCの存在比に与える影響というのはまだ考えていませんが、HCNH+イオンは4原子分子なわけで、四原子分子ができる確率というのは、僕の考える二原子分子2つの衝突と比較してもあまり高くはないと予想されます。となると、この反応による存在比の影響というのは考慮に値するのではないかな、というのが僕の雑感です。