SAITO Group

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Philosophy

近代のめざましい科学技術の発展によって,これまで不可能とされてきた様々なことが実現できる世の中になってきました.この不可能を可能にする科学技術の根幹は,科学的検証によって確立されてきた学理にあり,科学技術の更なる飛躍のためには,これまでの常識を打ち破る新学理の構築が必要不可欠です.

私たちの研究室では,C, H, N, Oといった元素をメインプレーヤーとする有機化学に,元素固有のユニークな性質を持つ典型元素を巧みに融合させることで,これまでにない新たな学理の構築を目指しています.また,そこから生み出される化合物の機能・物性にも焦点を当て,マテリアルズサイエンス分野に革新をもたらす研究に展開していきます.

Heavy Aromatic Compounds

芳香族化合物の代表格として知られるベンゼンは,その主骨格が炭素原子(周期表の第2周期)からできています.これまでの“芳香族性”の概念は,このような炭素骨格が主な研究対象とされていて,高周期元素を含んだ芳香族化合物に関しては,多くのミステリーが残されたままになっていました.私達は,分子骨格中に高周期元素であるスズや鉛原子を導入した環状化合物,ジリチオスタンノール及びジリチオプルンボールの合成に初めて成功しました.また,これらが炭素p電子系骨格にスズや鉛を含む初めての芳香族化合物であることを示しました.このことは,一部の例外を除いて第2周期までの元素で構築されている芳香族性の概念が遠く第6周期の元素の系まで成り立つことを示しており,化学の教科書に新しい1ページを刻む重要な学理となりました.

Related Papers:
  1. Saito, M.; Sakaguchi, M.; Tajima, T.; Ishimura, K.; Nagase, S. Hada, M. Science 2010, 328, 339–342
  2. Saito, M.; Haga, R.; Yoshioka, M.; Ishimura, K.; Nagase, S. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 6553–6556


Heteroatom-Containing Metallocenes

シクロペンタジエニルアニオン(C5H5,; Cp)は,遷移金属錯体の最も重要な配位子の1つです.Cp配位子を持つ金属錯体の代表格であるメタロセンは,合成反応の触媒や機能性分子の基本骨格として広く利用されています.触媒活性の向上やまだ見ぬ機能発現の達成という観点から,メタロセン骨格を拡張する研究に注目が集まっています.一般に,Cp配位子は負電荷を1つもったモノアニオン性配位子なので,1つのCp環に対し1つの金属原子を持ちます.一方で,私達がこれまで研究対象としてきたメタロールジアニオンは,単一5員環骨格上に2つの負電荷を有しているため,ジアニオン性配位子として見ることができます.私達はこの性質に着目し,メタロールジアニオンのスズ類縁体であるジリチオスタンノールに0.5当量の[Cp*RuCl]4を作用させることで,スタンノール環上に2つの金属原子(Ru)を持つトリプルデッカー型錯体が合成できることを見出しました.このように高周期14族元素(スズ)の特性を活かすことで,錯体化学の新たな可能性を切り拓くことができました.

Related Papers:
  1. Kuwabara, T.; Guo, J.D.; Nagase, S.; Sasamori, T.; Tokitoh, N.; Saito, M. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 13059–13064.


Heterasumanenes

フラーレンの炭素骨格を一部切り出した骨格をもつ化合物として,スマネン*が知られています.スマネンはフラーレンのモデル化合物としてだけではなく,人工的にフラーレンを合成しようとするときの重要な前駆体となり得るため,大変注目を浴びてきました.私達は,この炭素骨格からできたスマネンの一部を他の典型元素で置き換えた“ヘテラスマネン”に注目しています.ヘテラスマネンに導入された典型元素は,その元素固有のユニークな電子的摂動を骨格に付与することができます.また,炭素以外の典型元素を導入することで,元素周りの結合長,結合角,結合の本数を柔軟に変化させることが出来るため,これまでに類を見ないπ共役骨格を構築するための新たなビルディングブロックとなる可能性を秘めています.これまでのヘテラスマネンに関する研究は,3つの硫黄原子が導入されたトリチアスマネンの合成例が唯一知られているのみで(Otsubo, et al 1999, 1859.),その他の元素が導入されたヘテラスマネンは,その合成自体が挑戦的な課題となっていました.私達は,3つのケイ素原子が導入されたトリシラスマネンの合成を皮切りに,様々なヘテラスマネン誘導体を合成できる手法を確立しました.1つの骨格内に3種の異なる典型元素を段階的に導入することにも成功しています.現在は,このヘテラスマネンのユニークさ活かした新たなπ造形科学へと展開すべく,日々研究を行っています.

* スマネン(sumanene)の語源は,ヒンディー語,サンスクリット語のsumanが由来とされ,「花」を意味します.スマネンの周縁部環状骨格が花びらを連想させることからこの名前が付きました.(Mehta, G. et al. J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1993, 1006.)
Related Papers:
  1. Furukawa, S.; Suda, Y.; Kobayashi, J.; Kawashima, T.; Tada, T.; Fujii, S.; Kiguchi, M.; Saito, M. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 5787–5792.
  2. Saito, M.; Furukawa, S.; Kobayashi, J.; Kawashima, T. Chem. Res. 2016, 16, 64–72.
  3. Tanikawa, T.; Saito, M.; Guo, J.-D.; Nagase, S.; Minoura, M. Eur. J. Org. Chem. 2012, 7135–7142.
  4. Tanikawa, T.; Saito, M.; Guo, J.-D.; Nagase, S. Org. Biomol. Chem. 2011, 9, 1731–1735.
  5. Saito, M.; Tanikawa, T.; Tajima, T.; Guo, J.-D.; Nagase, S. Tetrahedron Lett. 2010, 51, 672–675.
  6. Furukawa, S.; Kobayashi, J.; Kawashima, T. Dalton Trans. 2010, 39, 9329–9336.
  7. Furukawa, S.; Kobayashi, J.; Kawashima, T. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 14192–14193.


Serendipity

私達は,日々の研究の中で出会う「予期せぬ発見」をとても大切にしています.実験前には想定していなかった実験結果は,一見して失敗のように映ります.しかしこのような想定外の事実からこそ,人の想像では及ばない斬新な科学へと発展していく可能性があります

私たちはある日の実験の“予期せぬ発見”から新反応を見いだしました.一般に,フェニルアセチレンのリチウムによる還元反応は,二量化を伴い1,4-ジリチオ-1,3-ブタジエンを与えることが知られていました(Smith, L. I.; Hoehn, H. H. J. Am. Chem. Soc. 1941, 63, 1184.).この知見を基に,フェニル(トリイソプロピルシリル)アセチレンにリチウムを作用させ,対応するジリチオブタジエンを合成しようと試みました.すると,当初想定していたジリチオブタジエンの他に,何か新しい見たこともない化合物が生成していることに気付きました.これを注意深く解析してみると,アセチレンの二量化および分子内環化が進行したジリチオジベンゾペンタレンであることが明らかとなりました.ジベンゾペンタレンは,電子親和力の高いπ共役化合物として注目されており,思いがけない発見からこのような骨格を簡便に合成できる新反応を見いだすことに成功しました.

Related Papers:
  1. Kuwabara, T.; Ishimura, K.; Sasamori, T.; Tokitoh, N.; Saito, M. Chem. Eur. J. 2014, 20, 7571–7575.
  2. Saito, M..; Hashimoto, Y.; Tajima, T.; Ishimura, K.; Nagase, S.; Minoura, M. Chem. Asian J. 2012, 7, 480–483.
  3. Saito, M.; Nakamura, M.; Tajima, T. Chem. Eur. J. 2008, 14, 6062–6068.
  4. Saito, M.; Nakamura, M.; Tajima, T.; Yoshioka, M. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 1504–1507.
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