既に我々は、3位にカルボニル基を有するο−トリルケトン1を高圧水銀灯で光照射すると、ο−メチル基にあるγ−水素の引き抜きにより、ヘキサン中ではベンゾシクロブテノール2が、メタノール中ではテトラロン3が主生成物として得られることを見いだしている1)。
また3位にカルボニル基を有するο−イソプロピルアリールケトンは、上記光照射では反応しないことを報告してきた。今回この研究の一環として、3位にエステル基及びアミド基を有するο−アルキルアリールケトンの光反応を検討したところ、興味ある知見が得られたので、以下に報告する2)
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3位にエステル基を有するο−アルキルアリールケトンにヘキサン中、パイレックスフィルターを通して高圧水銀灯で光照射したところ、オルト位の置換基がメチル、エチル、イソプロピルである3−メトキシカルボニル−ο−アルキルアリールケトン4のいずれの場合にもベンゾシクロブテノール5が主生成物として得られた。一方、メタノール中で同様な反応を行ったところ、オルト位の置換基がイソプロピル基の場合にはベンゾシクロブテノール5cのみが得られたのに対し、オルト位の置換基がエチル、メチルと小さくなるにつれて、ナフタレン−1,3−ジオン6の生成比が増えていくことがわかった。同様に3位にアミド基を有するο−アルキルアリールケトン7についても光反応を検討したところ、六員環生成物は得らず、対応するベンゾシクロブテノール8のみが得られた。この結果はエステルの系と対照的であり、さらなる反応性の違いに興味が持たれる。
Reference
1) Yoshioka, M.; Nishizawa, K.; Arai, M.; Hasegawa, T. J. Chem.
Soc., Perkin Trans. 1 1991, 541.
2) Saito, M.; Kamei, Y.; Kuribara, K.; Yoshioka, M.; Hasegawa, T. J.
Org. Chem.1998, 63, 9013.